ある不動産の相続でのお話。

2018/04/11

当社では底地の買取とコンサルティングを主な業務としていますが、そういった仕事をしていますと、必然と相続に関わるいろいろな問題を目にしたりお聞きしたりすることが多くなります。
どうしても、底地をお売りになる地主様は相続をきっかけとして土地の整理を考えることになるケースがほとんどだからです。

いろんな相続の例を目にしていますと、不動産業者の立場からすれば、なんでこんな形にしちゃったんだろう、と思ってしまう事例が良くあります。

しかしそれは、譲るほうも譲られるほうも、どちらの側も悪意があってのことではない場合がほとんどです。
どちらも、こうするのが一番いいだろうと、良かれと思ってやっているのですが…

結果、「なんでこんなふうにしちゃったの?」というケースが少なくありません。

今回ご紹介するケースは、お亡くなりになった方の遺言によるきちんとした相続でした。
正式な遺言がありましたので、親族の方はその遺言のとおりに相続し、その段階では全く揉め事などはなかったのですが…
結果として、「法定地上権」という、ある意味一番厄介な権利関係を作ってしまっていました。

要は、お亡くなりになった方は、
ある方(Aさんとします)には自宅と土地を、
もう一方の方(Bさんとします)には、敷地内に建っていたアパートを譲る、
と遺言書に書いていたのです。
お亡くなりになった方自身は、AさんBさんそれぞれに対して「良かれと思って」財産を譲ったにすぎません。

しかし、それが結果として厄介な権利を作り上げてしまいました。

そこに悪意は決してありません。
全くの善意でご親族に譲られ、しかも争いが起きないように丁寧に遺言書も作成しておられました。
ただ、単に、不動産に関する法律の知識が不足していただけなんです。
それだけに、我々の立場からすると残念でなりません。
遺言書を書く段階でそこをアドバイスできる人はいなかったのかと。

どう厄介か、簡単にご説明しますと。

Aさんは自宅と土地をもらいましたが、ご自身にはすでに自宅があります。
ですのでご自分が住むという考えはありません。
では賃貸で貸そうかという発想も考えられますが、建物も古いため結構なリフォームをしないと貸せそうにありません。
また少々郊外で、駅からも遠いため、高額なリフォーム費用をかけても得られる家賃はそう高くは望めませんので、あまり現実的ではありませんでした。

では売ってしまえば、と普通は考えるのですが。
その敷地内に、Bさんが相続したアパートがあるのです。
はっきり言いましょう。Aさんの土地建物は普通には売れません。
そこにBさんの「法定地上権」が発生しているからです。

残念ながら、このままでは、ただ固定資産税だけを払い続けるための不動産でしかありません。
いくら思い出あるおじいちゃんの家でも。

Bさんは、アパートのほうをもらいました。
こちらは当面の家賃収入がありますのでAさんと比較すればだいぶ良かったのですが、このアパートも随分と老朽化したアパートでした。
当面は良いのですが、将来建替えたり売却したりするときにはかなり難しい状況になることが考えられます。
土地を持っておらず、敷地が「法定地上権」でしかないからです。

Aさんは、今困っています。
Bさんは、将来困ります。

結果として、当社に依頼が来ました。

最終的に、Aさんの土地建物は第三者に売却することができました。
Bさんのアパートについては、その部分の土地についてBさんに買い取ってもらいました。

本当は先に書いたような法定地上権のような権利上の錯綜だけにとどまらず、細かな問題がまだまだあった土地だったのですが。
そこまで書いているとあまりに長くなりますし、今日のテーマではありませんので省きます。
ただ、この件は実は当社のノウハウの粋を集めたと言っても過言ではないほどの仕事になりました。

「争続」という言い方をお聞きになることがあるかと思います。
税理士さんが相続に関するセミナーなどをやられる時によく使われるフレーズですね。
これだけはやっちゃいけませんよ、と。

しかし、当面の「争続」を避けるために良かれと思ってやったことが、将来になって問題を噴出させることがあるのです。
本来は、そこまで考えて財産の整理分割を行わなければなりません。
言うのは簡単、実際には難しいんですけどね…

次回はもう一つ、「やってはいけない相続」をご紹介しようかと思います。

(堂田光治)

< 前の記事